| 監訳まえがき |
21世紀の医療は、ナノメディシンが中心的になるものと考えられる。
ナノメディシンは、従来の医療の概念を改変する可能性を持っている。このナノメディシンにより、今後は予防・診断・治療のどの場面でも分子レベルでの予防検査技術、診断技術や分子操作などの治療技術が必要不可欠なものとなるであろう。それらを支える一例は、ナノセンサ・ナノスケールスキャン技術よる診断・モニタ・測定、分子輸送・ソーティング技術による拡散輸送・膜濾過・受容体輸送術、可変表面・可変形状機能を有する医療ナノデバイス、医療ナノデバイスの動力・エネルギー供給術、医療ナノデバイスと生体間のネットワーク、標的部位への医療ナノデバイス誘導のための位置・機能的ナビゲーション技術、治療のための医療ナノデバイスの局所環境のマニュピレーションなどである。その意味では、分子レベルからみた健康、疾病、新たな生命観までをも再定義する機会を提唱するものといえるであろう。
本書は近未来に起こりうるナノメディシンの基礎となる様々な概念や技術の可能性を示しており、将来のナノメディシンに対する期待も込められている。また、近未来の医療技術革新の方向性を示しており、新医療機器技術の概念を示すものともなっている。いわばナノメディシン時代における医療機器のあり方、可能性を示しているのが本書である。同時にこのような技術の可能性を早急に理解し、そこから引き起こされる新たなナノメディシン世界における人間としての基本概念、生命環境や社会問題などを改めて考える機会を与えている(例えば、異種生物の分子再構築物の人への活用、遺伝子操作による新生命体からの臓器移植、体内機械との共存、ナノレベルでの物質の移動制御が引き起こす新たな環境問題など)。
一方、わが国におけるナノメディシン研究が本格化したのは2002年のことである。この年は厚生労働省を中心に各省庁が補助金などの資金援助を一斉に開始した年でもあり、この後にわが国のナノメディシン研究が拡大していった感がある。2004年からは日本生体医工学会専門別研究会としてナノメディシン研究会が発足し、2005年にはJournal
of nanomedicineが米国ナノメディシン学会の学術誌として創刊され、2006年には日米ナノメディシン交流協会も発足している。現在150を超えるプロジェクトが国内で進行中であり、その有益な成果が期待されているところである。これらの個々の成果は、着実に臨床応用へと進んでいるものと考えられるが、ナノメディシンの全体像を俯瞰した体制となっているかについては、若干の懸念が残るものであり、それらの解消に本書が役立つのではと考え、既に1999年に発刊された本書を今般翻訳出版するに至ったわけである。同時に本書はこれから医療や医工学を勉強しようとするものに進むべき研究の方向や将来ビジョンを定義しており、研究者のためのガイドブックにもなりうるものであると考えている。
出版にあたっては、このように有益な本書を如何に早く出版できるかを最優先課題とした。従って用語の統一がなされていない箇所やいくつかの造語的訳語が存在している。これらについては、今後統一の検討をする必要もあるが、当面は疑問をもった読者自身が既にインターネットで公開されている原書を参照することを期待したい。
最後に、本書の監訳にあたり多大な協力を頂きました日本生体医工学会専門別研究会 ナノメディシン研究会 会長であり東京慈恵会医科大学総合医科学研究センターME研究室教授 古幡博先生、刊行にあたりご尽力を頂いた株式会社薬事日報社ほか関係各位に感謝致します。
この翻訳書が、わが国のナノメディシン研究及び教育に活用されますことを期待したい。
2007年8月
財団法人医療機器センター
理事長 渡辺 敏 |
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